「 ビクター版 狼少年ケン 」


 「 狼少年ケン 」のスタッフスーパーは、その内容は勿論のこと、書体・レイアウトまで毎回様々に変化するなど、観る者の予断を許しません.中でも 演奏/アンサンブル・ビボ に続く「 ビクター少年合唱団 」の一行は、今尚ある種の人々に 不安と困惑 そして 微かな期待 を与え続けています.

 編者は学生時代、東映会館の直営店にあった16mm上映コーナーで、これを観る度「 ビクターか...」と苦々しく思っていました. 編者に限らず、こうした記述に対して、ビクターからのリリースを連想するのは、ごく自然な反応ではないでしょうか. しかし、この常識的発想こそ、恐るべき無明地獄への第一歩 となろうことなど、当時の編者は知る由もありませんでした.

■ 本論に先立ち、もう一度オープニング・エンディングでのテーマソングの使用形態をまとめておきましょう.
オープニング: 以下、ここでの曲を ※1 で表す.
象徴的な太鼓の連打とボバンババンボンから始まる、イントロ20拍.2番はワーオワーオではなく、本編通りのケンの遠吠えが入る.2コーラス構成.歌声・伴奏に強いリバーブが付く.全話共通.

前期エンディング: 以下、ここでの曲を ※2 で表す.
※1 のエフェクトレスバージョン.イントロ10拍.1コーラス構成.※1 と比較すると、コーラスというより歌唱者各々の声として聴こえ、伴奏も物足りなく感じられてしまう.※1 のリバーブの効果が良く判る.第14話まで.

後期エンディング: 以下、ここでの曲を ※3 で表す.
朝日ソノプレス M−63 (後に M−3) 収録の西六郷少年合唱団版.( 創設当初、文字通り“少年”合唱団であった同団の名称は、60年代後半、その実状に合わせて 西六郷少年少女合唱団 に改められています.)1コーラス構成.短縮イントロに遠吠えが入ってくるタイプと、遠吠えが先行するタイプとがある.何れも伴奏にまでリバーブが付くが、※1の比ではない.また、スタッフスーパーから、歌唱者名は無くなる.
■ 更に『 何が問題なのか 』を整理します.
問題.A: ※1 ※2 を歌っているのは、何者なのか?
問題.B: ビクターからの ※1 ※2 のリリースは存在したのか?
 以下、ビクター という表記は、ビクター出版、日本ビクター、ビクター音楽産業、ビクターエンタテインメント の何れかを指します.また、このページにおける 年 は全て西暦です.
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問題.A に対する答えは『 スタッフスーパーに「 ビクター少年合唱団 」と出るのだから、その合唱団が歌っている.』以外にないように見えます.しかし、状況は、もう少し複雑です.

 まず、この名称を持つ団体が実は存在しなかったのです.結論から述べると、この「 〜合唱団 」は番組側の誤記、正しくは ビクター少年合唱隊 です.61年の「 ビクター少年合唱隊規約 」の中で、その名称が「 〜合唱隊 」と規定されて以来、ケンの放映当時もこの名のみが使われており、更に、社名を冠した専属少年合唱グループ、というビクター社内での位置付けからしても、合唱隊/合唱団という2つの組織の存在、あるいは、これらの名称の併用、の可能性は皆無です.他方、番組スタッフスーパーにおける人名などの誤記の多さは、夙に知られたところでしょう.( 誤った表記が使われ続けていることから、各回共通の原稿段階の過誤と推定できます.)この 隊/団 の誤りは、同合唱隊の関係者にとっては「 もう慣れっこ 」のものだそうです.

 しかし、スーパーの真に指すところが、ビクター少年合唱隊 だとしても、本当に彼らが歌っているのか? という問題が残ります.つまり、スーパーの表記だけではなく、内容まで違っているのでは...という疑念です.そこまで製作者を疑っても仕方がない気もするのですが、この誤記が意図的なものでないことを見極める意味からも、もう一歩詰めておきたいと思います.これに関して、次の [1] [2] が判明しています.

[1]ビクター少年合唱隊OB会の30周年記念CDの解説書に「 同合唱隊がケンの主題歌を歌った 」という記載があり、OBからも吹き込み肯定の発言があること
[2]80年3月に一般に公開された同合唱隊の年譜には、ケンの吹き込みの記録がないこと
ここで、もし「 この年譜の吹き込み記録に漏れはない 」とすると、どうなるでしょう.まず、[2] によって、[1] の解説書・証言に誤りがあることになります.確かに、解説書の記事自体のソースは不明ですし、メンバーの年齢を考慮すると、何らかの記憶違いの可能性も否定はできません.だとすると、※1 ※2 を歌った別のグループが存在したことになります.そして「 その本当の歌唱者は、自身の名を明かすことなく、番組スーパーは、実在のレコード会社・実在のグループを想起させるような、虚偽の情報を伝え続けていた 」ことになるでしょう. 果たして、そんな事態が有り得たのでしょうか? 例えば、何らかの事情の下、歌唱者名を伏せる必要が生じたにせよ、単に、クレジットしなければ済むだけのことで、敢えて、生々しい「 ビクター 」の名を持ち出す必要は見当たりません.また、ビクター側から見ても歌ってもいない曲に、自社専属グループの類似名義を使用させる理由がどこにあるというのでしょうか?

 以上から判断して、問題.Aに対する解答は 『 ※1 ※2 を歌っているのは、ビクター少年合唱隊 である.』のみです.

また、本稿公開後、ビクター少年合唱隊のメンバー(荒井さん、古畑さん)と放映当時交流のあった愛知県の橋本(旧姓 竹中)様より、「 古畑君は「狼少年ケン」のケ〜ンと叫ぶのを担当していました。彼ら2人とずっと文通していましたから、そう書いてありました。」との情報を頂きました.有り難うございます.

 ところで、現在「 狼少年ケンのテーマソングといえば、西六郷少年合唱団 歌唱 」という認識が、広く定着しているようですので、少し補足しておきましょう. すなわち、こうした主張における テ−マソング とは、上述の ※1 ※2 ではなく、次に挙げる シート・レコード音源、並びに、その一部を用いた ※3 を指しているのだ、という点です.
特徴リリース例
イントロ12拍.2番もワーオワーオで始まる.ボバンババンボンに覇気がなく切れが悪い.パーカッションが暴れ続け後奏にまで絡む.「 狼少年ケン 」
朝日ソノプレス B−63 '64.3.21
ワーオワーオ・ボバンババンボンともになく、ファンファーレから始まるマーチアレンジ.ベースを強調したミキシング.「 狼少年ケン 第2集 」
朝日ソノプレス B−81 '65.5.15
ステレオ収録.イントロ20拍.2番もやはりワーオワーオで始まる.右の「 東映動画の巻 」の為の新録音.「 コロムビアまんが大行進 第2集 テレビ漫画主題歌集 」
日本コロムビア KKS−23 '67.3
編者としては、こうした資料に依らずとも、リリース音源を一度でも聴いたことがあれば、※1 ※2との歌声・伴奏の違いに気付かないはずはないと思うのですが、一般の受け手のみならず、西六OBの方からも「 西六がレコーディングしたものが、TVでも流れていたものと考えていた... 」との声が聞かれるのが現状です.なお、西六版(上記リリースの何れかは不明)でのケーン!の叫びは、第10期生のミナミさんとのことです.
取材協力: fukaman、V.B.クラブ


問題.B については、3つの段階に分けて、考察を進めることにします.

●「 ビクターからの狼少年ケンの CD リリースは存在したのか? 」 これに対する答えは、端的に「 YES 」です.

 レンタル店でお馴染の「 TWIN BESTシリーズ 懐かしのアニメ主題歌集 」(VICL−41047〜8 ビクターエンタテインメント '98)がその実例です.この VICL−41048 の12曲目には確かに「 狼少年ケンの歌 」とあります. では聴いてみましょう...

お判りですね、ファンファ−レタイプの西六版 です.これは、上表の通り ソノプレス B−81(後に M−16)「 狼少年ケン 第2集 」に収録のテイクで、イントロのファンファーレは、シートドラマのケン登場の西本雄司「 狼少年ケンだ! 」の流れに沿ったものです.当然、※1 2 3 の何れとも異なります.以下、この曲を ※4 で表します.

●「 ビクターからの狼少年ケンの レコード リリースは存在したのか? 」 これに対する答えも、やはり「 YES 」です.

 中古店でお馴染の「 テレビまんが大行進《 鉄腕アトムから怪物くんまで 》」(JB−45〜46−S 日本ビクター '70)がその実例です.この JB−45 のA面5曲目には確かに「 狼少年ケン 」とあります. では聴いてみましょう...

お判りですね、これも ※4 です.しかし、ここで我々は、その出所を探る2つの手掛かりを得ることができます.

 第1の手掛かりは、この2枚組に収録されている全24曲中、少なくとも4曲(ジャングル大帝のテーマ、リボンの騎士、おそ松くん、ドカチンダンス)が、ソノプレス/ソノラマ制作の音源であるという事実です.例えば、リボンの騎士など、イントロの編集点はおろか、太田淑子の台詞まで ソノラマ M−87 そのままです.つまり、この時期ビクターは、かつてのシート市場でのライバル、朝日ソノラマからのテープ提供を受けて、商品制作にあたっていたわけです.これは、※4もまた、ソノラマからビクターへ渡った音源であることを示唆しているかのようにも思えます.

 ところが、更にこのオムニバス盤をよく聴くと、次の点にも気付きます.すなわち、ジャケットに モノラル録音 と明記された音源であっても、完全に左右チャンネルシグナルが一致しているもの(上記の4曲はそうです)と、軽いエフェクトにより擬似ステレオ化されたものとがあるという点です.そして、忍者部隊月光の歌、スーパージェッター、オバケのQ太郎という、ビクター出版が各作品の本放送当時にリリースしていた、言わばビクター手持ちの音源と共に、※4は、この後者に属しています.従って、ビクターが ※4 を本放送当時から所有していた可能性も否定できないことになります.

 ここまでの CD、レコードリリース における ※4 がTVとは全く異なるカバーバージョンであることをもう一度強調した上で、いよいよ問題.Bの解決に挑みたいと思います.

●「 ビクターからの狼少年ケンの ※1 ※2 のリリースは存在したのか? 」

 まず、存在を仮定してみましょう( ということは... ). 以下、この仮定を H1 で表します.

1.すると直ちに次の疑問が生じます.

何故ビクターは、TVオリジナルの ※1 ※2 があるのに、上記のカバー ※4 をリリースしたのか?
素朴ながら、強力な指摘です.しかし、各メーカーのオムニバス盤収録曲を眺めると、強ち有り得ない話ではありません.

 例えば、一世を風靡したN社の4枚組シリーズには、自社盤が存在した K や A などの作品が収録されていませんでしたし、マニア向けを唱ったK社の2枚組でも、作品 F の自社リリースがあったにもかかわらず未収録、更に同社後年の企画では、光学録音帯音声を用いたものまで存在します.つまり、オムニバス盤の制作が、自社のそれまでの全リリース音源をソースとし、最大限にそれらを活用して行われているものと期待するのは、楽観に過ぎるのが実状なのです.実際、上記 VICL−40156 の収録曲のうち論ずるに値するものは、全て JB−45〜46−S に収められており、孫引きの謗りを免れない作りになっています.無論、こうした怪しげな選曲が、担当者の怠慢に因るものではなく、我々素人には思いも依らない高度な業務上の判断の下で行われている可能性も充分にあります(?)何れにせよ、後年のオムニバス盤に未収録であるからと言って、そのメーカーが過去にTVオリジナル編成のリリースを持たなかった証拠とは言えないわけです.

2.もう少しペタンティックに、H1 を批判することもできます.それには、東映動画とソノプレス/ソノラマとの関係を述べなければなりません.

 データベースからも判るように、ケンに続く64年フジ丸から68年009までの(ロビン・サリーを除く)東映動画作品の混載盤以外の任意のリリースは、ソノプレス/ソノラマ独占のシートのみか、ソノシート+大手メーカ−によるレコードリリースか、のどちらかになっています.65年以降、よく見られる同一音源による複数社競合承認は、TBSが先鞭を付け、その驚異的成功を受けて、NTV、CXへと波及して行ったものですが、このシステムは、元来、番組の知名度の低さを補う為の苦肉の策であり、業界の雄たる東映動画としては、そんな下品なセールスを打つ必要なし、との営業方針だったのです.

 東映動画のこの方針が、ケンのリリース承認にも適用されていたと仮定してみましょう. 以下、この仮定を H2 で表します.すると、同時期に複数社のシートリリースは存在せず、必然的に、※1 ※2 のリリースは、ソノプレス B−63 の企画以前、つまり、

64年2月以前
ということになります.ところが、当時のビクター出版のリリースは、番組開始時点から最低でも4ヶ月を要しているのです.すると、ケンの放送開始が63年11月の末ですから、※1 ※2 のリリースは、
64年3月以降
のはずで、この2つは、明らかな矛盾です.

これは大変理に適った指摘のように思えます.が、実は H2 に問題があります.

 すなわち、ケンのスタートの翌12月公開の「 わんわん忠臣蔵 」での東映動画とビクターとの関係です.ご存知のようにこのオープニングには「 主題歌 ビクターレコード 」とクレジットされ、実際、VS−1139 という日本ビクターからのシングルリリースが存在します.この事実から、ケンの準備時期には、並行して東映動画と日本ビクターとの間で音源制作・リリース企画が進行していたことが判ります.( ※1 ※2 をビクター専属のビクター少年合唱隊が歌った経緯もこの辺りにあると思われます.)従って、ケンに対するリリースをフジ丸以降の枠で捉える H2 は、妥当とは言えないのです.

3.何ら物証を伴わない H1 ですが、以上の議論では、それを破棄する証拠もまた存在しないかのように見えます.ところが、事態は思わぬ物証の登場により終結を迎えます.

 ここに「 テレビ漫画主題歌集 」(MBK−118 ビクター出版 '64.9)なるシートがあります.では、収録曲を見てみましょう.

爆風隊の歌   エイトマンの歌
鉄人28号の歌   わんわんマーチ
忍者部隊月光の歌   ポパイ ザ・セーラーマン
ご覧の通り、ケンは含まれていません.そうです、もし、※1 ※2 の何らかのリリースが存在したのなら、本放送の直中に発売され、当時のビクターリリース、とりわけ東映動画作品であり日本ビクターからのレコードリリースしか持たなかった「 わんわん忠臣蔵 」までも、網羅したこのシートの選に漏れるとは到底考えられません. また、番組単独盤が、収録時間・カップリング曲・ドラマ制作など、様々な問題を伴うのに対し、こうしたオムニバスリリースが、手持ちの音源を活用できる絶好の場であることは、MBK/MBシリーズの混載盤の例を挙げるまでもなく明らかでしょう. しかし、未収録なのです.編者は、このありふれた混載盤こそ、H1 を破棄するに足る証拠、すなわち、ビクターからの ※1 ※2 のリリースが存在しなかった物証 と理解しています.


2001/9/8 ver 1.26 ご意見・情報はこちらへフロントページへ